市民講座「PSA検診」講演内容(前半)

前立腺がんとレディースケア

今回は、「前立腺がんとレディースケア」と題して、前立腺肥大症と前立腺がんの基礎知識と最新治療法についてご紹介したいと思います。

前立腺肥大症は、男性ならば、誰にでも訪れる加齢現象です。しかし、日常生活に気をつけることで、進み具合を遅らせたり、症状を軽めに抑えたりすることができます。つまり、正しい知識をもって、積極的に前立腺を検査して、適切な治療を受けることで症状は改善されます。また、いまの日常生活の上でいくつかの点で気をつけることで、オシッコの出具合は大きく変わり、生活の快適さにも雲泥の差が出てくるのです。最近の泌尿器科学の進歩は著しく、薬物治療や手術治療も発展しています。また、検査法も進歩して、痛くない方法を旨としますので、ついつい病院に足が遠のいてしまう人でも、安心して泌尿器科専門医に受診して下さい。

前立腺肥大症の症状は、段階的に進行していきますが、中にはほとんど自覚症状のあらわれない人もいます。具体的な治療については、「前立腺肥大症の診療ガイドライン」で、EBMつまり医学的な根拠に基づいた治療法が謳われています。近年、この領域の薬物開発の進歩は著しく、その恩恵は計り知れない。尿が出にくくなる「前立腺肥大症」という病気が存在することはよく知られていますが、肝心の前立腺そのものについては、あまり知られていないかもしれません。

前立腺は男性だけにある生殖器官の一部です。古くは「摂護腺」と呼ばれました。女性でいえば子宮に相当する器官です。哺乳類には必ず存在し、男性の生殖機能に欠くことのできない大切な臓器です。解剖学的には、膀胱の下に位置し、形、大きさ、ともに栗の実に似ています。重量は正常で15〜20g程度です。肛門から直腸を触診すると、前立腺に触れることができます。ベテランの泌尿器科医であれば、この直腸診だけで、前立腺肥大症と前立腺がんを診断できる場合があります。

前立腺のなかを尿道が貫通し、左右の射精管が後方から前立腺の中央部を通って尿道に開口しています。構造的に前立腺を見てみると、均一の組織ではなく、一部が筋性、一部が腺性となっています。従来、尿道に近い内腺と皮膜に近い外腺に分類されていましたが、最近では辺縁ゾーン、中心ゾーン、移行ゾーンの3つに分類されるようになりました。辺縁ゾーンが外腺、中心・移行両ゾーンが内腺に当たると考えられます。前立腺肥大症は移行ゾーンから発生し、前立腺がんは、どの部位からでも発生しますが、主に辺縁ゾーンから多く発生します。若いときは移行ゾーンは小さく、辺縁ゾーンが前立腺の大部分を占めています。ところが、加齢とともに移行ゾーンが大きくなり、肥大が発生すると辺縁ゾーンは皮膜のほうに押しやられて、最後にはわからないほど薄くなってしまいます。

前立腺の役割や働きについては、不明な点が多いのですが、明らかになっているのは次のようなことです。まず、精液の一部となる前立腺液を分泌します。前立腺液は、精液の15〜30%を占め、乳白色でさらさらした液です。前立腺液はアルカリ性で、クエン酸、果糖、亜鉛など多種多様な物質が含まれています。クエン酸は緩衝液として精子を守り、果糖は精子の運動エネルギー源、亜鉛は精子の運動促進、などの役割を果たしていることはわかっていますが、その他についてはわかっていません。

また、膀胱頚部に接していることから、前立腺にはもうひとつの大事な役割として、尿をもらさないようにする働きもあると考えられています。前立腺には多くの平滑筋が含まれ、交感神経からの刺激を受け、α1受容体を通して収縮します。そこで、前立腺肥大症の治療薬として、α1受容体遮断薬があります。つまり、α1受容体の経路を断ち、前立腺を弛緩させるのです。その結果、前立腺の中を通っている尿道が広がり、尿の流れがよくなるという訳です。

前立腺はその発生から増殖、成長までのすべてを男性ホルモンに依存している特異な臓器です。精巣から分泌される男性ホルモン(テストステロン)の刺激がなければ、前立腺は発生しません。したがって女性には前立腺がないのです。もし、思春期までに去勢したとすると、前立腺は小さくなり、以後成長しません。また、この人が前立腺肥大症や前立腺がんになることもありません。ここで、強調したいことは、前立腺肥大症と前立腺がんは、まったく別の病気であり前立腺肥大症を放っておいて前立腺がんになるわけではありません。ですから、前立腺肥大症ではないかと調べているうちに、偶然、前立腺がんが発見されるということも珍しいことではありません。最近になって、前立腺がんの患者さんが急激に増加していますので注意が必要です。

前立腺肥大がなぜできるのかは、よくわかっていません。ただ、高齢者に特有の病気であること、思春期前に去勢すると発生しない病気であることなどから、男性ホルモンと加齢がかかわっていることは間違いありません。そのひとつに、DHT(ジ・ヒドロ・テストステロン)説をあげます。前立腺が男性ホルモン依存性の臓器であることは、すでに述べました。具体的には、精巣でつくられたテストステロンという男性ホルモンが、血中から前立腺細胞に取り込まれ、5α還元酵素の働きで、男性ホルモンとして、より活性度の高いDHTに変換されます。このDHTが前立腺の増殖や維持をコントロールしていると考えられます。DHT説は、前立腺内にDHTが異常に増えたときに肥大が発生するのではないか、という仮説です。実際に肥大した前立腺では、5α還元酵素や男性ホルモン受容体が増えていることは確認されています。しかし、DHTそのものの濃度は、正常前立腺でも肥大前立腺でも変わりはありません。

次に、女性ホルモンのエストロゲン説をあげます。エストロゲンが、男性にしかない前立腺に関与していることについては、「犬にエストロゲンを与えて実験的に前立腺肥大症をつくり出すことに成功した」など、さまざまな報告があります。加齢とともに前立腺肥大症が発生してくることは明らかですが、これは精巣機能が低下し、男性ホルモンが減少するにつれ、相対的に女性ホルモンの量が増加することになるためではないかと推測されています。加齢とともに前立腺の間質細胞にエストロゲンが蓄積されていくという報告もあります。こうした報告から、エストロゲンが前立腺に重大な影響力を持っていることは確実です。

前立腺肥大症は典型的な年齢依存性増殖です。病変の経過は長く、早ければ30代に始まり、ゆっくり増殖しながら、40〜50代で症状が出ると考えられています。60歳を過ぎると、半数以上の人が夜間頻尿と排尿障害を訴え、65歳前後で治療を開始する人がもっとも多くなります。そして80歳までには80%の人が、前立腺肥大症になると見られています。程度の差はあれ、ほとんどの男性は、長生きしていれば前立腺肥大症になるのです。日本で前立腺がある程度肥大し、尿の出方も悪いという人は、およそ110万人。厚生労働省の調べでは、そのうち30万人が治療を受けているという報告です。

欧米に比べれば日本では前立腺肥大症が少ないのは事実です。しかし現在、日本の前立腺肥大症は急激に増えつつあります。単純に高齢社会になったからとばかりはいっていられない現状です。前立腺肥大症は、穀菜食中心で寿命も短かった戦前には、比較的少ない病気でした。それが経済の復興とともに増え続け、今や先進国なみになろうとしています。食事や生活の欧米化が、前立腺肥大症を増加させていることは間違いないでしょう。こうした排尿障害の症状を訴えて、病院を訪れる方のほとんどが50歳以上の男性です。もっとも疑われるのは前立腺肥大症と前立腺がんです。

しかし、他にも排尿障害を起こす病気があり、症状だけで前立腺の異常と決めつけることはできません。たとえば夜間頻尿は、前立腺肥大症の典型的な症状のひとつです。そこで、自分はひと晩に2回以上トイレに起きるから、前立腺肥大症に違いないと思い込む人がたくさんいます。しかし、夜間頻尿でまず疑わなければならないのは、寝る前に水分をとり過ぎていないでしょうか。夕食が塩分の多いものだったり、お酒をのんだりしたときには、当然水分の摂取も多くなり、夜トイレに起きる回数も増えるはずです。

また、夜間頻尿との関係で最近注目されているのが、睡眠の老化といわれるものです。一般的に、正常な睡眠には一定のリズムがあります。約90分の周期で浅い眠りと深い眠りを繰り返しているのです。高齢者の睡眠は若い人に比較して規則正しい深い睡眠がほとんどなく、浅い睡眠が頻繁に現れ、熟睡できていないことが特徴です。これが睡眠の老化です。つまり、夜間頻尿は前立腺肥大症や前立腺がんの症状であると同時に、睡眠・尿意というものは、本来規則的なものではありません。体調や温度、水分のとり方などによって変わってきます。つまり、全然トイレに起きない夜もあれば、たまに2回ぐらい起きる夜もあるというのが普通です。「もう年だから、尿の出が悪くてもしかたがない」と、あきらめたり、「夜、何回もトイレに起きるから、前立腺肥大症だ」と決めつけたりする前に、一度、専門医に受診することをおすすめします。

更に、前立腺肥大症の症状を複雑にしている合併症に、「過活動膀胱(OAB)」が挙げられます。実際に、前立腺肥大症の患者の70%に過活動膀胱が見られます。過活動膀胱とは、突然の尿意を頻繁に感じ(尿意切迫感)、時には、突然の尿失禁(切迫性尿失禁)を伴う症候群で、統計では、日本において成人の12.4%、実に810万人に認められる疾患なのです。最近の研究から、この疾患は、高コレステロール血症(脂質異常症)や糖尿病といった生活習慣病との関連が深く、さらに、それらによる膀胱粘膜の血管の血流に行き着くのであり、まさに、「血管病」と呼べるかもしれない。これによる、夜間頻尿は、クオリティ・オブ・ライフ(QOL)を損ねます。夜間頻尿の回数が多いほど、夜間の転倒・骨折が多くなり、それをきっかけとした寝たきりの原因ともなりかねず、夜間頻尿の回数と、平均余命には統計上も因果関係があり、高齢者は、日頃より、気を付けていただく必要がある。

前立腺肥大症になると、排尿にどんな不都合が生じるのでしょう。先ほどの、自覚症状を整理してみましょう。

  1. 頻尿、特に夜間の排尿回数が増えます。夜2回以上起きるようなら要注意。3回以上の場合は治療が必要です。
  2. 排尿姿勢をとってから、実際に尿が出るまでに時間がかかります。これを遷延性排尿(せんえんせいはいにょう)といいます。
  3. 尿が出始めてから、出終わるまでの時間が長くかかります。正常の場合は20秒以内に終わりますが、前立腺肥大症になると1分以上かかる人も少なくありません。これを苒延性排尿(ぜんえんせいはいにょう)といいます。
  4. 尿は太く弧を描いて勢いよく排出されるのが正常です。ところが前立腺肥大症になると、細くだらだらと出るようになります。症状が進むと、最初からポタポタとしずくがたれるようにしか出ない場合もあります。ちなみに子どものオシッコは130cmも飛びますが、成人になると60cm程度しか飛びません。それが前立腺肥大症になると30cm以下になります。
  5. 正常の排尿は、腹に力を入れなくてもスムーズに出てきます。しかし、障害が起きると腹庄を加えないと出ないようになり、もっともひどい場合は完全尿閉といって、まったく出なくなることもあります。

尿の勢いを検査するために、病院に行くと尿流測定という検査を受けることになります。これは測定器に向かって排尿するだけの、簡単な検査で、尿の勢いが波形としてグラフになって図示されます。それをみて、一見して排尿障害のパターンがわかるわけです。前立腺肥大症などによる排尿障害があると、この尿流量曲線は低い連山型のパターンとして描かれます。

また、もっとも勢いよく排尿するときの毎秒当たりの排尿量を最大尿流量率といいます。尿の勢いは、排尿量と関係があり、排尿量が増すほど増大します。わかりやすくいえば、たくさんたまっているほど、尿の勢いもよくでるということです。しかし、そうはいっても限度があり、全排尿量250mlぐらいを目安に、それ以上はいくらためても最大尿流量率は増大しません。たとえば100〜150mlの尿を出す場合の正常最大尿流量率は、毎秒15〜18mlです。もし、100〜150mlの尿を出したときの最大尿流量率が、毎秒10ml以下であれば、治療が必要です。

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