市民講座「PSA検診」講演内容(後半)

前立腺がんとレディースケア

次に、症状による前立腺肥大症の進行・病期について説明します。

第1期の頻尿や排尿障害は、肥大組織が膀胱を刺激するためと考えられています。残尿が発生するほど肥大は成長していません。しかし、問題は病院に行かない人です。

宴会でいい気持ちで飲んでいて、トイレに行ったら、出ない!などという人は第2期です。ここで残尿が発生します。放尿力とは、排尿しようとする力と、せき止めようとする力のバランスです。正常な排尿では、膀胱にたまった尿はすべて排出されます。ところが、前立腺が肥大し、尿道が圧迫されて狭くなると、せき止める力が増大しますので、放尿力が低下して、だんだんと膀胱に尿が残るようになってしまいます。これが残尿です。普通の人は、せいぜい我慢しても400mlぐらい尿がたまるとトイレに行きたくなります。たとえば残尿が100mlある人では、300mlたまったらトイレに行きたくなる計算です。つまり残尿の分だけ頻尿になるわけです。

第3期は、排尿できたとしても、ほんの上澄みだけで、またすぐにトイレに行きたくなる状態です。トイレとの往復で1日が終わってしまうような、ものすごい頻尿です。極端な例では、尿閉といって、膀胱に尿が1000ml以上もたまってしまうことがあります。こうなると、コップから水があふれるように、尿があふれ出てしまいます。これを、溢流性尿失禁(いつりゅうせいにょうしっきん)といいます。

ところが、当の患者さんにたずねても、排尿障害の自覚症状はなく、むしろ頻尿で困っていますと答える人が多くいます。また、内科などのかかりつけの先生に、ついでにそのように訴えて、頻尿を治す薬、つまりオシッコがでにくくなる薬を処方されて、ますます排尿障害に拍車がかかり、とうとう急性完全尿閉となり、おなかがパンパンに張って、うなりながら受診してくる患者さんを時々みかけます。このように、排尿障害を正しく診断することは、医者であっても案外難しいものなのです。

前立腺肥大症の治療というと、かつては開腹手術が主流でした。昔は、治療法があまりなく、選択の余地がなかったからです。また、症状が重くなってはじめて病院にかかる人が多かったことなども関係しています。手術は確かに治療効果が抜群です。しかし患者さんの負担も大変なものです。まして前立腺肥大症の患者さんは、ほとんどが中高年齢者です。体力的にも、あるいは他の病気にかかっている場合も多いことなどを考えれば、手術はなるべく避けたいと薬物による保存的な治療が主体になっています。

薬物療法に用いられる薬には、次のようなものがあります。

  1. α1受容体遮断薬
  2. 抗男性ホルモン剤
  3. 生薬・漢方薬などです。

これらを症状や肥大の程度に合わせ、単独に、あるいは薬を組み合わせて用います。その中でも、主役は前立腺の緊張を緩和するα1受容体遮断薬です。膀胱頚部と前立腺には多くの平滑筋が含まれ、交感神経からの指令を、α1受容体を通して受けて、収縮します。ですから、寒いときやストレスが原因で排尿障害が起こるのは、交感神経が緊張して平滑筋が収縮するからです。なので、この経路を断てば、前立腺の緊張は解かれ、前立腺部の尿道の緊張は緩和されて排尿障害も改善されるというわけです。さらに、このα1受容体遮断薬は、交感神経からの刺激をブロックしますので、収縮期血圧を多少低下させる作用もありますので、そろそろ血圧が高くなりそうな中高年の患者さんには、一石二鳥の作用といえます。実際、外来でも患者さんにそのように説明して、薬の内服の重要性を説明しています。短所としては、薬をやめてしまうと、また症状が出てしまうということです。

以前から使用されている、抗男性ホルモン剤も良いお薬ですが、短所としては、性機能の低下を招いてしまうことです。また、前立腺がんの腫瘍マーカーのPSA値を低下させるために、前立腺がんの早期診断を困難にしてしまうという弊害もあります。

そして、薬物療法で思うように症状が改善しない場合は、手術に踏み切ります。現在では、内視鏡による経尿道的前立腺切除術(TUR-P)という手術が主流になっています。その他にも、レーザーを使った前立腺切除術(Ho-LEP)など、なるべく出血の少ない手術法への工夫がなされています。まさに「前立腺は切らずに治す」時代になりました。前提として、早期に専門医の診断と適切な治療を受けることで、すばらしいクオリティ・オブ・ライフ(QOL)を取り戻し、快適な生活を送られることを希望いたします。

さらに、早めの診断・治療をお奨めするのには、もう一つの理由があります。実は、前立腺肥大の症状の影に、前立腺がんがひそんでいることがあるのです。前立腺がんと前立腺肥大症は、症状に似ているところがあり、前立腺がんは、早期の段階ではほとんど自覚もありませんが、腫瘍マーカーとして、PSA(前立腺特異抗原)の採血検査だけで前立腺がんも多く発見されるようになっています。前立腺がんも、ほかのがんと同様に、早期のうちに見つければそれだけ治癒率も高くなります。天皇陛下も同疾患のご治療のご様子がマスコミで報じられてから、ますます関心が高まっています。

前立腺がんの早期発見の場合、治療法として、肥大症とは異なり、まず、開腹手術の前立腺全摘出術があげられます。これは、前立腺肥大症に対する手術とは全く異なり、精嚢腺も含めて前立腺を摘出する手術です。リンパ節郭清も同時に行います。術中の合併症としては、輸血を必要とするような出血、まれに直腸の損傷。術後の後遺症としては、勃起不全、尿失禁、まれに排尿困難があります。これらの、合併症や体の負担を少なくするために、最近、病院によっては、内視鏡を下腹部に4本差し込み、上記の手術を行う腹腔鏡下手術が行われるようになりました。しかし、この手術は、かなりの熟練を要し、専門施設でのみ施行されています。さらに、進歩して、最近ではda Vinciサージカルシステムを導入した、ロボット支援腹腔鏡下前立腺摘除術(ロボット支援手術)も条件によって保険適応となり、より早期に社会復帰が可能となりました。

他には、前立腺がん治療の、ブラキーテラピー(密封みっぷ小線源治療)と呼ばれる放射線治療が平成14年12月からようやくわが国で可能となりました。この治療法は、放射線同位元素の粒(シード線源)を前立腺組織内に刺入して組織内照射を行うというものです。米国での成績では、治療効果は手術とほとんど同じという報告です。この治療法は、開腹手術と比較していくつかの点で利点があります。つまり、性的合併症も含めて、合併症の発現頻度が低い、入院期間が短い 、などです。今後、前立腺がんは日本でも増加が見込まれる癌であり、この治療法は我が国でも普及することが予想されます。これらの詳細は、日本泌尿器科学会のホームページ等をご参考下さい。

このように、前立腺肥大症・前立腺がんの診断と治療は現在も目まぐるしい進歩をしているのです。ここで、申し上げたいことは、現代医学の進歩により、前立腺肥大症はまさに「前立腺は切らずに治す」時代になりつつあると思います。そのためにも、50歳を過ぎたら、健康管理のために、早期に専門医の診断と適切な治療を受けることがますます大事になると思います。

最後に、まとめとして、前立腺肥大症と上手につきあっていくための日常的なポイントを、「前立腺肥大症とつきあう10の鉄則」として提唱したいと思います。すなわち、

  1. お酒の飲みすぎを避ける
  2. オシッコをがまんしない
  3. 体を冷やさない
  4. 一日の終りはゆっくりお風呂に入る(特に、下半身を暖めてください)
  5. 長時間、座りっぱなしでいない
  6. 日本型の食生活を心掛ける(つまり、高脂肪・高カロリーを避ける)
  7. 便秘を防ぐ
  8. 規則正しい生活を送る(つまり、夜更かしを避け、十分に睡眠をとる。暴飲暴食を避ける。)
  9. 刺激のある食べ物は避ける
  10. カゼ薬や胃薬、精神安定剤などを服用するときは医師・薬剤師等に相談する。

これらの根拠について補足の説明をいたします。前立腺が大きくなると、前立腺の中を貫いている尿道が圧迫されて狭くなっています。ですから、この部分に負担をかけると、むくみが生じて、余計にオシッコが出にくくなります。たとえば、冬の寒い日に、緊張した状態で、ずっとオシッコをがまんしながら体を冷やしてゴルフに興じ、宴会でお酒をいつもより多く飲んで、トイレに行ったらオシッコがまったく出なくなり、尿閉で病院に駆け込んでくる人がいます。そうならないためには、それとは逆のことをすればよいのです。

頻尿などの症状が悪化するのは、冬が多いのです。特に下半身を冷やさないようにしましょう。骨盤内の血液の循環を常によい状態に保つように心がけてください。40度前後のぬるいお風呂に、ゆっくり入るのも効果的です。前立腺付近を温めることで前立腺の緊張をやわらげることができます。また、入浴は快眠にもつながり、夜間頻尿にも効果的です。

また、デスクワークや運転など、長時間座ったままでいるのもよくありません。適度な運動をすることも、血液の循環をよくし、前立腺のうっ血を予防します。下肢の運動を重点的に行うといいでしょう。

最後に、薬には十分注意をして、他の病気で治療を受けるときは、前立腺肥大症であることを忘れずに医師に告げてください。たとえ、市販の風邪薬でも、成分によってはオシッコが出にくくなることがありますので注意して下さい。

以上、前立腺肥大症と前立腺がんの基礎知識と最新治療法について「前立腺がんとレディースケア」と題してご紹介しました。

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